家賃などの費用を一年分前払い費用にすると、節税効果があると聞いたことがあるかもしれません。
今回は、その前払費用がどうして節税となるのか、そして前払費用の6つ計上要件とメリットデメリットを解説していきます。
目次
前払費用とは
費用と書いてありますが、簿記を知らない方は単純に「費用」と思ってしまうかもしれません。
会計上、前払費用とは「資産」となります。
その後、実際にサービスなどを受けた場合に費用となるものの事を前払費用と呼んでいます。
前払費用|節税のための6つの計上要件
どのような前払費用が節税として有効なのか
一般的には下記のものが節税対策として有効な費用として挙げられます。
・賃借料
・保険料
・借入金利息
・月払いの会費 など
このような費用は、たいてい前月末までに翌月分を支払う契約になっていると思います。
上記のような前払費用で重要性の乏しいもの、一定の要件を満たすものについては、「短期前払費用の特例」が適用できます。
「短期前払い費用の特例」とは、簡単にいうとちゃんとした会計処理ではなく、簡単な方法で処理をしても費用としていいよ、と言うものです。
【具体例】 月の地代家賃10万円の場合
・本来の会計処理(下記仕訳を毎月末と翌月初に行う)
3/31 前払費用100,000/現金預金100,000
4/1 地代家賃100,000/前払費用100,000
・簡単な方法の会計処理(短期前払費用の特例)
3/31 地代家賃1,200,000/現金預金1,200,000
上記例で、3月決算法人でしたらどうでしょうか。
翌年一年間の家賃を会計上も税務上も費用として計上できるので、決算間際の節税対策として有効といえます。
また金額が僅少なものについては、事務作業の簡便化という観点からも有効な特例と言えます。
6つの要件とは
節税対策としても使われる短期前払い費用ですが、計上するためには下記6つの要件をクリアしなければなりません。
(等質・等量のサービスなどの役務の提供であること)
②支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
③継続的に適用すること
④重要性が乏しいもの
⑤費用と収益が対応するような費用でないこと
⑥当期中に支払いをしたものであること
短期前払費用を使った節税の具体例
ここで注意が必要なのは、先ほど6つの要件で説明した
”②支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること”です。
【契約変更月】3月
【契約期間】4月~翌年3月
【支払日】3月中
よくあるパターンですが、役務の提供を受ける期間は3月末までなのに対し、3月に支払っていると1年を超えてしまうことになります。
3月31日で支払ったとしても1年以内ではなく、1年を超えることとなります。
この適用を受けようとする場合、決算月より1月早い月に契約変更をするようにしましょう。
決算月に契約変更をし、支払をすると短期前払い費用の特例を受けられないリスクが出てきますので注意が必要です。
短期前払費用の特例がNGなものは
1.地代家賃等について
①貸主の了承を得ていない場合
月払いの契約をしている場合、契約変更をせず一年分を前払いしたものはこの特例は使えません。
②一年を超える支払いの場合
事務所家賃の例)4月~翌年3月までの家賃を2月中に前払いをする場合にはこの特例は使えません。
③又貸ししている場合
費用と収益が対応しているため、この特例は使えません。
2.その他の役務の提供について
①税理士報酬
等質・等量のサービスとは言えないため、この特例は使えません。
②期間限定のサービスについて
例)TVCMの放映料や広告掲載料などは、期間限定で放映されている場合について継続的なサービスの提供とは言えないため、この特例は使えません。
3つのデメリットについて
「短期前払い費用の特例」は節税対策として有効な方法の一つですが、もちろんデメリットもあります。
1.節税効果は1年だけ
上記説明をみてもうお分かりの方もいらっしゃるかもしれません。
節税効果は、年払いを始めた初年度だけとなります。
その後は、継続適用となります。
また年払いをやめる年には全く費用が計上されないので、年払いをやめるタイミングにも注意が必要となってきます。
このことからも永久に続く節税対策ではなく、税金の繰り延べに近いものがあります。
2.資金が必要となる
一年分を払うので、その分のキャッシュなどが必要となります。
中小企業の場合には、家賃などを年払いするのはかなりの負担となる場合がありますので、資金繰り計画をしっかりと立てておきましょう。
3.移転しづらくなる
事業が軌道に乗ってくると、もっと広いところに移転、もしくは都心などに店舗や事務所を構えたいとを考えている中小企業の社長も多くいらっしゃると思います。
その際に、家賃の年払いはネックになることがあります。
家賃の年払いについては資金繰りはもちろんの事、事業計画も念頭に入れておいてください。
短期前払い費用の適用について|裁判事例より
短期前払い費用の特例は、6つの要件が揃っていることが大前提となります。
しかし、この短期前払費用についてはいくつか裁判事例もあります。
どのような裁判事例かは、ここでは割愛しますが、6つの要件を満たしているからと言って必ず認められるわけではないということだけ頭においておいてください。
例えば同じ家賃の金額でも、企業の大きさや売上金額などで認められるケースや否認されるケースが可能性があります。
裁判の事例を全体的にみてみると、下記のようなことが言えるでしょう。
1.企業規模で比較
基本的には売上と比較する
2.売上規模
売上が高い会社などは否認される可能性が低く、売上が低い会社などは、否認されるリスクがある
3.税引前の利益と比較
否認する理由をつけるために、税引前当期利益などとの比較がされることもある
さいごに
決算の節税対策として有効な前払費用ですが、多額の金額を手軽に節税できる反面、デメリットなどもあります。
決算対策に使用したいと思われる場合は専門家などにもよく相談し、実行に移してくださいね。