予想以上に利益が出ている場合などに「決算賞与」という節税対策があります。
決算間近でキャッシュが未払いでも、当期の費用として認められる「決算賞与」について、その要件とメリットデメリットを説明していきます。
目次
決算賞与とは何か
決算賞与は、臨時ボーナス的な位置づけにあります。
通常のボーナスとはイメージは違いますが、要件さえ満たせば通常のボーナスと同様に当期の費用として計上できます。
決算の前に利益額が予想以上に出た場合などに支給される場合が多いので、決算期間近の駆け込みの節税対策として知られています。
当期の費用とできる3つ要件について
3つの要件とは
実際に決算賞与の支払いが期末までに間に合わない場合でも、未払いとして当期の費用として計上ができます。
※この決算賞与の話では、分かりやすく会計上の「費用」という言葉を使用しています。
国税庁の説明などでは法人税法上の「損金」が使われています。
ここでは、ほぼ同じ意味ですので、あまり気にせず読み進めていってください。
では、早速その要件を見てきましょう。
②上記通知した賞与の支給額を、決算日の翌日から1カ月以内に、通知した全ての従業員に支払っていること
③通知した金額について、通知をした日の事業年度の費用として経理をしていること
注意点|当期の費用としてみとめられない3つのケース
①在籍者のみに決算賞与を支払うと決めている場合
社則でこのように決めている場合には当期の費用として計上できません。
②決算賞与を受け取ることが出来ない従業員がいる場合
賞与の支給額の通知を受け取った後で、辞職などをして支払いを受けることができなかった人が1人でもいる場合には、全員分の損金を当期の費用として計上できなくなります。
③通知された賞与の支給額と異なる額の支払いがある場合
一人でも通知された賞与の支給額と異なる支給があった場合には、当期の費用として認められません。
上記のように、当期の費用として認められない場合には、実際に支払いをした日の費用として計上することになります。
当期の費用か翌期の費用になるのか、時期の違いだけでいずれも費用にはなりますが、
当期の費用とならない場合は駆け込みの節税対策として有効ではなくなります。
決算賞与を支給する際には注意しながら行ってください。
注意点|税務署に認めてもらうための3つの注意点
税務調査のリスクも考え、決算賞与を支払う際には下記のことに注意しておくといいでしょう。
①通知を書面で行うこと
口頭やメールなどではなく、証拠資料として残すためにも書面で行うといいでしょう。
②銀行振込、又は現金支給の場合には領収書をもらう
出来る限り証拠資料として提示できるよう、銀行振込が望ましいです。
どうしても現金手渡しとなる場合には、必ず領収書を書いてもらってください。
③決算前に賞与を支払ってしまう
決算日に未払いであっても、その期の費用として計上できますが、
万が一税務署に認めてもらえない場合も想定し、資金繰りに問題がなければ決算日前に支払っておく方が安心です。
決算賞与|2つのメリットについて
1.節税対策
第一に節税対策があげられます。
具体例を見ながら、どのくらい節税となるのか見ていきましょう。
利益金額:800万円
税率:15%円
決算賞与額:300万円
所得金額 | 税金 | |
決算賞与として支給しない場合 | 800万円 | 120万円 (800×15%) |
決算賞与として支給した場合 | 500万円 (800-300) |
75万円 (500×15%) |
節税額:45万円(120万円-75万円)となります。
※実際には賞与金額×税率で節税金額がだいたい計算できます。
また未払いでも計上がみとめられていますので、こんな時にも節税対策として計上ができます。
2.従業員のモチベーション向上
儲かった利益を従業員に還元し、従業員の臨時ボーナスで支払ってあげた方がいいと考える経営者の方も多いかと思います。
利益を還元してくれれば嬉しいですし、やる気も起き更なる売上アップに繋がるかもしれません。
しかしデメリットとなる可能性もあります。
詳しくは次の段落でかきますね。
決算賞与|2つのデメリットについて
メリットについては上記で説明しましたが、反対にデメリットも存在します。
1.キャッシュが減る
当たり前ですが、決算賞与を支給して節税する場合より、決算賞与を支給しなかったときの方が手元に現金は残ります。
先ほどの具体例をもとに、手元に残るキャッシュを計算してみましょう
利益金額:800万円
税率:15%円
決算賞与額:300万円
決算賞与支給前の現金残高:500万円
所得金額 | 税金 | 手元現金 | |
決算賞与として支給しない場合 | 800万円 | 120万 (800×15%) |
380万円 (500-120) |
決算賞与として支給した場合 | 500万円 (800-300) |
75万 (500×15%) |
125万円 (500-300-75) |
手元キャッシュの差額:255万円(380-125)
決算賞与を300万支給すると、節税にもなりますが、これだけのキャッシュの違いが生まれます。
2.社員のモチベーション向上となるか
ここが意外や意外、言われれば当たり前のところですが、従業員のモチベーションアップのために支給したはずの「決算賞与」があだとなるケースもあります。
来年以降、下記の場合にはどうでしょうか。
・利益が少なく決算賞与の額が下がった場合
・利益がでなくて支給できなかった場合
当然ですが、毎期もらえると思っていた従業員のモチベーションは下がります。
そして、前回上がったモチベーション以上にモチベーションは下がることでしょう。
なぜなら人間は得したことより損したことの方がダメージを受けやすいからです。
こうならないためにも、一定の利益が出た場合には、どのくらいの割合で支給するといった規定を作成しておくといいでしょう。
さいごに
利益を還元し、社長の懐の大きさを見せたい気持ちも分かりますが、会社経営上キャッシュが一番大事になります。
決算賞与の支給を一時的な節税対策として用いるのはあまり得策ではありません。
中長期的な視点より「決算賞与」が会社にとってメリットとなるのか、またデメリットもよく理解したうえで決算賞与を支給するか判断してください。
そして、実際に支払う際には、税務調査で否認されないためにも証拠資料などにも注意して支給を行ってくださいね。